
こんにちは、
りんとちゃーです。
花札の3月札に描かれている植物の「桜」と短冊札の「みよしの」。
(左から順に「桜に幕」「桜に短冊」「桜のカス」「桜のカス」)
「みよしの」(よ=変体仮名)は、桜の名所である奈良県の「吉野(よしの)」に美称の接頭語「み」をつけた言葉で、後鳥羽天皇の和歌を由来にしています。
また、左端の札「桜に幕」の「幕」は、満開の「桜」の下に描かれた幔幕【まんまく】(=横に伸びた長い幕)を意味し、「花見席・花見会場」を表現しています。
記事では以下のことをまとめています。
■街路樹の定番桜「ソメイヨシノ」の秘密
■短冊札「みよしの」の由来と変体仮名について
花見の季節に向けて桜の知識を先取りして、宴の席で自慢しちゃいましょう。
桜(サクラ)
植木屋生まれの「ソメイヨシノ」
■基本情報
分類:バラ科サクラ属の落葉広葉樹
学名:Cerasus
和名:桜
英名:Cherry blossom、Sakura
原産地:ヒマラヤ近郊
開花時期:3月~4月
花の色:白、薄桃色、濃桃色
花言葉:精神の美、優美な女性、純血、富と繁栄
ヒマラヤ原産でバラ科サクラ属に分類される「桜(サクラ)」は、「梅(ウメ)」と並ぶ日本を代表する花木で、主に、山野に自生する「山桜」と品種改良でつくられた「里桜」の2種に分けられます。
吉野山にある「桜」は、野生種の「山桜」で、見た目は「里桜」の「ソメイヨシノ(染井吉野)」にそっくりですが、開花と同時に葉が出て、散る時期も個体ごとに差があるため「ソメイヨシノ」とは異なります。
「ソメイヨシノ」は日本の植樹の8割を占める代表的桜で、幕末の頃に、江戸の染井村の植木屋の伊藤伊兵衛政武(いとういへいまさたけ)が「オオシマザクラ」と「エドヒガシザクラ」を交配させて作り出しました。
ちなみに、名前に「ヨシノ(吉野)」とついていますが、奈良県の吉野地方と植木屋に直接の関係があったわけではなく、これは、「桜の名所の『吉野』をつければ、たくさんの人が買ってくれるだろう」という販売者の単なる思惑によるものです。

いわゆる「吉野」の
ネームバリューだね!
■豆知識①『花見団子の色の意味』
「花見団子」の桜・白・緑(●◯●)の3色にはそれぞれ意味があり、「桜●」は春の桜の花、「白◯」は冬の雪、「緑●」は夏の新緑を表しています。また、一般的な「花見団子」は、串の先から桜・白・緑(●◯●‐)の順に刺さっていますが、これは、桜のつぼみ【●】▶桜の花【◯】▶葉桜【●】という桜の木の変化を表現したものです。
(▶▶関連記事:【4月行事】春のお花見と花祭りの由来|三色団子の色の意味)
街の桜は全てクローン!?
染井村の植木屋によって開発された「ソメイヨシノ」は、花づきが良く見た目も華やか。しかも成長が早く、10年で立派な木になることから、理想的な桜として明治政府に高く評価されました。
その後、政府は「ソメイヨシノ」を日本各地に植樹しようと考えますが、桜には自らの花粉だけでは種をつくることができない性質、いわゆる「自家不合和性」があるため、一本しかない「ソメイヨシノ」では子孫をつくることができません。
そこで注目されたのが、接ぎ木によって「クローン(複製)」をつくるという技術です。
日本各地の公園や学校で見られる「ソメイヨシノ」は、この接ぎ木の技術によって作られたクローン桜で、まったく同じ遺伝子を持っています。そのため、同じ地域にある桜は、まるで口裏を合わせたかのように同時に開花します。
ちなみに、同じクローンの「ソメイヨシノ」ばかりが植樹された場所(公園、街路樹など)では、他の花粉を受粉できないため、当然のことながら桜の実である「さくらんぼ」は実りません。(※野生種の山桜はさくらんぼが実ります)

だから公園の桜には
「さくらんぼ」が
ついてないんだね。
■豆知識②『桜餅の香りの正体』
道明寺粉を蒸した餅(もち)生地の「関西風」と、小麦粉を薄く伸ばして焼いた生地の「関東風」の2種類がある「桜餅(さくらもち)」。
桜餅に使われている「オオシマザクラ」の葉からは、美味しそうな甘い香りが漂いますが、実際のサクラの木から葉をとって香りを嗅いでも、甘い香りはしません。実は、桜餅の香りの正体は、葉を塩漬けにすることで出てくる「クマリン」という物質の香りによるものなんです。この「クマリン」は、他のサクラの「ソメイヨシノ」にも含まれていますが、「ソメイヨシノ」は「オオシマザクラ」と違って葉が堅く美味しくないので、桜餅にはあまり使われていません。
短冊札「みよしの」
美称「みよしの」と変体仮名
(花札3月「桜に短冊」)
短冊札に描かれている文字「みよしの」は、奈良県の「吉野(よしの)※1」に、美しさをあらわす接頭辞「み」をつけた言葉で、ひらがなの「な」のように見える文字は「変体仮名(へんたいがな)」と呼ばれる、かつての日本で使われていた古い字体です。
(※1)吉野(よしの)・・奈良県吉野郡吉野町付近を示す昔の地名。古来から信仰の地として尊ばれ、宮滝の辺りには、歴代の天皇の離宮が建てられていた。南北朝時代の南朝の根拠地でもある。
明治33年の「小学校令施行規則」で文字が統一されるまで使用されていた、ひらがなの旧字体の「変体仮名」は、一音が一字に対応する現在の「ひらがな」と異なり、一つの音に対して複数の字体が当てられていました。
たとえば、「あ」という音には、「安」だけでなく「愛」や「阿」、さらには「惡」も「字母【じぼ】(=活字の鋳型となった字体)」として使われていました(下図参照)。
ちなみに「変体仮名」は、現在でもその一部が残っていて、そば屋の看板・のれんなどに使用されています。
「みよしの」の由来
短冊札に描かれている「みよしの」の由来となったのは、後鳥羽(ごとば)天皇が京都の四天王院の襖(ふすま)に描かれた絵を題材にして詠んだ次の和歌です。
『み吉野の 高嶺の桜 散りにけり 嵐も白き 春のあけぼの』
――後鳥羽天皇(新古今和歌集133)【訳】ほのかに高嶺(たかね)が浮かび出るこの春の夜明け前、吉野山の桜はどうやら散ってしまったようだな。なぜって、舞い散った桜の花びらで、吹き下ろす山風が真っ白に染まっているからさ。
「後鳥羽天皇【1180~1239】」は鎌倉初期の天皇で、「承久の乱(※2)」による倒幕の企てで隠岐(おき)に流されたことで知られています。また、和歌の才にも秀でていて、「新古今和歌集」の編纂(へんさん)を藤原定家(ふじわらのさだいえ)らに命じ、日本文学史に大きな功績を残しました。
(※2)承久(じょうきゅう)の乱【1221年】・・鎌倉幕府討伐を目論んだ後鳥羽天皇が、全国各地の武士に対して「北条義時(ほうじょうよしとき)」追討の命を出し挙兵。しかし、幕府側に逆に鎮圧され、乱の後、後鳥羽天皇は隠岐島(おきのしま)に流され、朝廷の権力が大きく失墜する。
■豆知識③「あけぼの・しののめ・あかつき」
後鳥羽天皇の和歌に出てくる「曙(あけぼの)」は「夜明け前」を示す古語で、似たような言葉に「暁(あかつき)」「東雲(しののめ)」があります。以下に、それぞれの言葉の違いをまとめました。
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■暁(あかつき)・・夜半過ぎから夜明け前のまだ暗い時間帯。
■東雲(しののめ)・・東の空が薄く明るむ時間帯、暁の終わりあたり。
■曙(あけぼの)・・日の出前のほのかに明るんだ時間帯。
▶▶時間で考えると、「暁(あかつき) ⇨ 東雲(しののめ) ⇨ 曙(あけぼの)」の順で朝(日の出)に近づくことになります。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
では、内容をおさらいしましょう。
■「ソメイヨシノ」は、江戸の染井村の植木屋で誕生した。
■接ぎ木の技術を利用して日本各地に「ソメイヨシノ」が植樹されたため、街なかで見られる桜はすべてクローン桜。
■短冊札に描かれている「みよしの」は、奈良県の「吉野」に接頭辞「み」をつけた美称で、その由来は後鳥羽天皇の和歌にある。
春のよそおいが次第に増して、もうすぐ花見の季節を迎えますが、今だにコロナは収束を見せない様子。桜の下で宴の席を開く際には、コロナ対策のためにも、ソーシャルディスタンスを心がけてくださいね。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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