こんにちは、
りんとちゃーです。
花札の最後を彩る、植物の「桐(きり)」と伝説の霊鳥「鳳凰(ほうおう)」。
(※左から順に「桐に鳳凰」「桐のカス」「桐のカス」「桐のカス」)
「桐」は古くから良質の木材として家具や工芸品に使われてきた植物で、「鳳凰」は日本と中国の両方において、吉祥を象徴する崇高な存在でありました。
加えて「鳳凰」には、「梧桐(ごどう)の木に止まり竹の実を食べる」という有名な伝説があり、これをモチーフにして花札の12月に「桐と鳳凰」が描かれるようになったと言われています。
記事では、以下のことをまとめています。
■「桐(きり)」の歴史と特性、語源
■代表的な桐紋(五三桐・五七桐・太閤桐・桔梗桐)について
■中国の「鳳凰(ほうおう)」と世界各地に伝わる聖なる鳥
日本と中国に関わりが深い「桐と鳳凰」の雑学を、『キリ』よく最後まで学んでいきましょう。
桐(きり)
■基本データ
分類:ノウゼンカズラ科キリ属
(※ゴマノハグサ科に分類されることもある)
学名:Paulownia tomentosa
英名:Empress tree、Princess tree
和名:桐、きり
漢名:白桐、泡桐、榮
原産地:中国、韓国
開花時期:4~5月
花言葉:高貴
都道府県の木・花:岩手県
特徴
「桐(きり)」は中国が原産の落葉広葉樹で、成長が非常に早く、15年から20年で高さ約10mの成木になります。
樹皮は白っぽい灰色で、開花時期は4月下旬~5月下旬。枝の先に5~6cm程の釣鐘(つりがね)型をした紫色の花を咲かせ、その後に直径3~4cmの丸い実をつけます。
歴史
「桐」は飛鳥時代に中国から日本に渡来したとされ、その主な産地は、福島県(会津【あいづ】桐)、岩手県(南部【なんぶ】桐)、岡山県(備後【びんご】桐)です。
古くから、箪笥(タンス)や下駄、神社やお寺・宮廷の儀式用の琴・箏(そう)の素材として利用されきましたが、近年は日本国内での「桐」の生産量は大幅に減少し、中国や台湾・アメリカなどからの輸入に頼る現状があります。
分類
「桐」は何科であるかはっきり分かっておらず、ノウゼンカズラ科やゴマノハグサ科・キリ科など、さまざまな解釈があります。
一番有力なのはノウゼンカズラ科に属すというもので、アメリカノウゼンカズラと花の形によく似ていることがその根拠となっています。
由来・語源
「桐(キリ)」は鳳凰の止まり木である「アオギリ」と全く別の種にあたり、両者の混同を避けるために、中国ではアオギリを「梧桐(ごどう)」、キリを「白桐」と呼び分けています。
学名表記「Paulownia tomentosa」の「Paulownia」は、ドイツの植物学者シーボルト(※1)に資金援助していたオランダのアンナ・パヴロヴナ女王(※2)の名前にちなんだもので、和名の「きり」は、木目が美しいことを意味する「木理(きり)」と、「切る」とすぐに芽を出すその性質に由来します。
(※1)シーボルト(Siebold)【1796-1866】・・江戸時代後期にオランダ商館医として来日したドイツ人医師・植物学者。1824年に長崎の出島の外に「鳴滝(なるたき)塾」を開設し、西洋医学(蘭学)を指導した。加えて、日本の植物に関心を示し、出島に植物園をつくって研究を行った。
(※2)アンナ・パヴロヴナ(Anna Paulowna)【1795-1865】・・ロシア皇帝パウロ1世の娘で、オランダ王ウィレム2世の王妃。王への献身的な愛と母国ロシア宮中とのつながりで、オランダ宮廷に華やかな彩りを与えた。
英名には「Empress tree(女帝の木)」と「Princess tree(王女の木)」の2種類があり、これは、集まって咲く紫色の花が「気品豊か」に見えたことに由来するものです。
花言葉
「桐」は、中国で伝説の霊長・鳳凰が止まる木として崇められ、日本でも神聖な木として神事などの行事で使われていたことから、それにふさわしい「高貴」の花言葉が当てられています。
特性
「桐」は軽くて水を通しにくく、断熱性に優れており、パウロニンやタンニン・セサミンなどの防虫成分も多く含まれています。
■豆知識①『ピンからキリまで』
「最上から最下まで、もしくは最初から最後まで」を表す言葉の「ピンからキリまで」。
「ピン」は、ポルトガル語で「点」を意味する「pinta」に語源があり、後にサイコロの目の「1」や「はじめ」を意味する言葉として使われるようになります。
「キリ」は、花札の最後の月(12月)に描かれている植物の「桐(きり)」が由来とされていて、「終わり」を意味する言葉として現在でも使われています。
家紋・紋章
中国の有名な伝説に「聖天子(※3)の象徴である鳳凰は、梧桐(ごどう)の木に宿り竹の実を食す」というものがあり、それに倣って「桐」は、霊長の宿り木として古来から神聖視されていました。
(※3)聖天子(せいてんし)・・平安をもたらす統治者、優れた皇帝などを意味する言葉。
日本では、嵯峨天皇(※4)の頃から高貴の象徴として「桐」を紋章・装飾に用いるようになり、中でも「桐紋」は、天皇から豊臣秀吉などの権力者に下賜(※5)されるなどして、皇室以外にも広まりを見せます。
(※4)嵯峨(さが)天皇【786-842】・・第52代に数えられる平安初期の天皇。父は桓武(かんむ)天皇。在位初めに起きた「薬子【くすこ】の変(=平城天皇との抗争事件)」を乗り切り、律令制を固めた。
(※5)下賜(かし)・・身分の高い人が身分の低い人に与えること、くださること。
「桐紋」は、3枚の葉の上に3本の花を描くのが基本形となっていて、それに則ってさまざまな種類の「桐紋」が作られていきました。
以下は、代表的な「桐紋」のまとめになります。
五三桐(ごさんぎり/ごさんのきり)
天皇から足利尊氏や織田信長などの有力武将に下賜された家紋で、法務省や皇室警察本部の標章の他、検察事務官や司法書士のバッジにも使われています。
桐の花の数は3-5-3(左右の2本に3個、真ん中の花茎に5個)で、武将の家紋の中では「丸に五三桐(ごさんきり)」の使用が最も多く、その割合は桐紋全体の70%を占めます。
■豆知識②「桐灰化学の由来」
「桐灰貼る!」でお馴染みの桐灰化学株式会社の主力商品と言えば「カイロ」ですが、現在の「使い捨てカイロ」が作られる以前は、『炭』を練って作る「カイロ灰」が販売の主流で、その『炭』の原料の中で最も火持ちの良かったのが植物の「桐」だったと言われています。
後に、初代社長がその「桐」にあやかった名前の「桐灰」を社名に採用。ロゴデザインとして伝統と格式ある「桐紋(五三桐)」を取り入れることになったのです。
五七桐(ごしちぎり/ごしちのきり)
「五七桐」は桐紋の中で最上位に分類され、豊臣秀吉が自身の家紋に使ったことでも知られています。
日本国の政府機関を象徴する紋章でもあり、内閣総理大臣紋やパスポート、五百円硬貨などに使われています。桐の花の数は5-7-5(左右の2本に5個、真ん中の花茎に7個)です。
太閤桐(たいこうぎり)
豊臣秀吉が太閤就任時に自ら作ったとされる家紋です。
秀吉はもともと、織田信長からもらった「五三桐」と、天皇から下賜された「五七桐」の両方を使っていましたが、味方を引き入れるために家臣にこれら2つを賜与したことで「桐紋」の権威が低下。代わりに自分だけが使用できる家紋(=太閤紋)を作ったと言われています。
桔梗桐(ききょうぎり)
下の部分に「桔梗の花」、上の部分に「桐の花」が描かれた桐紋で、明智光秀や坂本龍馬が愛用したことで知られています。
鳳凰(ほうおう)
中国における鳳凰
「鳳凰(ほうおう)」は、龍と同様に「神と人間を仲立ちする存在」として古来から中国で崇拝され、鹿・蛇・魚・燕などの生き物の集合体としてその姿が描かれていました。
「鳳凰」の羽の「五色(青・赤・黄・白・黒)」は「五行(※6)」と対応していて、羽を優雅にたなびかせて空を飛ぶことで、私たちに向けて「五徳(仁・義・礼・智・信)※7」を伝え諭していると信じられています。
(※6)五行(ごぎょう)・・古代中国で発祥した「五行説(=万物は5種類の元素から成るとする自然哲学思想)」における5つの元素「木・火・土・金・水」のこと。
(※7)五徳(ごとく)・・儒教で説かれた人が常に守るべき5つの徳目のこと。五徳はそれぞれ「仁=思いやり」「義=正義のための行動」「礼=礼儀正しい」「智=道理を知る」「信=誠実であること」を意味する。
また「鳳凰」には、「60年に一度だけ実を結ぶ竹の実だけを食し、梧桐の木にしか止まらず、草花を折ることもない」という有名な伝説があり、中国では、世の中に平安をもたらす優れた皇帝の出現を予言する瑞鳥(※8)として長いあいだ神聖視されていました。
(※8)瑞鳥(みずどり)・・めでたいことが起こる前兆の鳥。鶴、鳳凰など。
中国史初期においての「鳳凰」は、「鳳(ほう)」という雄と「凰(おう)」という雌の「つがい」を表し、陰陽の象徴であるとともに、男女の厳粛な関係を示す存在でもありました。
それが後に、雄の龍と一緒に「鳳(ほう)」と「凰(おう)」が「一羽の雌鳥」として描かれるようになり、謙虚・忠実・貞操・慈悲といった理想の女性の性質が内包されていきます。
中国の皇后が「鳳凰」をシンボルとしているのは、上述したような理由で「鳳凰」を皇帝(=龍)に寄り添う理想的な伴侶の象徴だと考えていたからです。
世界各地の聖なる鳥
中国から西方へ伝わった「鳳凰」は、イラン神話と結びつき、「シームルグ(※9)」という霊鳥のイメージに取り込まれていきます。
(※9)シームルグ・・イラン神話に登場する伝説の霊鳥。イラン北部のアルボルズ山脈に生息し、犬・獅子・鷲(ワシ)・孔雀(クジャク)が合わさった外観をしている(=頭が犬・脚が獅子・体と翼が鷲・尾が孔雀)。あらゆる植物の種子を地上にもたらし、子どもや英雄を守護する存在。
「鳳凰」は、西洋における伝説の不死鳥の「フェニックス」とよく混同されますが、「フェニックス」のルーツはまったく別のところにあります。
「フェニックス」は「鳳凰」と違って雄のみの単性で、何度も復活する特徴を持ち、紀元前5世紀にヘロドトス(※10)が書いた『歴史』においては、「外観が鷺(サギ)に近い」と記述されていました。
そのため「水鳥(サギ)」のような見た目をした古代エジプト神話の霊鳥「ベンヌ(※11)」が原形なのではないかと推測されています。
(※10)ヘロドトス・・歴史の父と呼ばれる古代ギリシャの歴史家。「歴史」という概念の成立に大きな影響を与えた。主な著作はペルシア戦争を主題にした「歴史」。
(※11)ベンヌ・・エジプト神話に登場する太陽神ラーに仕える鳥。ラーの神殿の炎に飛び込んで、死んだ翌日の朝に再度復活したことから、再生の象徴の「太陽」と同じ存在だと信じられている。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
では、最後に内容をおさらいしましょう。
■「桐(キリ)」は一般的にノウゼンカズラ科に分類され、防虫効果と乾湿調整の特性を活かして、家具や工芸品・楽器の材料に利用されている。
■「桐」の葉と花を図案化した「桐紋」には、「五三桐」「五七桐」「太閤桐」「桔梗桐」などの種類がある。
■中国で「鳳凰(ほうおう)」は、聖天子の出現を予言する神聖な瑞鳥とみなされていて、もともとは雄と雌のつがいを表していた。
■西洋の不死鳥「フェニックス」と「鳳凰」のルーツは別にあり、「フェニックス」の起源はエジプト神話の霊長「ベンヌ」にあると考えられている。
「桐」と「鳳凰」は日本人にとって馴染み深い存在で、500円硬貨の「五七桐」や10円硬貨の「平等院鳳凰堂」の他、一万円札の裏側(平等院鳳凰堂の鳳凰像)にも描かれています。
中でも「桐紋」は、「菊紋」と同じくらいに日本政府に尊ばれた紋章なので、教養としてぜひ覚えておきたいところです。
今回は花札12月についてまとめましたが、他にも花札の歴史や雑学についての記事をいくつか投稿しています。興味のある方は下記リンクも合わせてご参照ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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