【花札5月】「菖蒲に八橋」の意味と植物の違い|いずれあやめか杜若(かきつばた)

色彩あふれる花札のイメージ写真花札

 こんにちは、

 りんとちゃーです。

花札5月札の絵柄として描かれている「菖蒲」「八橋(やつはし)」

花札5月札。左から、「菖蒲(あやめ)に八ツ橋」「菖蒲に短冊」「菖蒲のカス」✕2
(左から順に、「菖蒲に八橋」「菖蒲に短冊」「菖蒲のカス」「菖蒲のカス」)

花札での「菖蒲」の読み方は「しょうぶ」ではなく「あやめ」で、さらに言うと絵柄のモチーフになっているのは「あやめ」ではなく、「八橋」の近くに咲く「かきつばた」なんです。

では、なぜこのような混同が起きてしまったのでしょうか?

それには、同じアヤメ科である3つの植物の見分けのつきにくさが関係しています。

記事では、以下のことをまとめています。

「菖蒲(しょうぶ)・花菖蒲(はなしょうぶ)・あやめ・杜若(かきつばた)」の特徴と生態、見分け方

「在原業平(ありわらのなりひら)」が八橋の近くに咲く「かきつばた」を見て詠んだ和歌の紹介

「菖蒲(しょうぶ)」について詳しく学んで、花札の知識勝負(しょうぶ)で相手を打ち負かしましょう。




紛らわしい植物たち

花札5月の種札のことを「菖蒲に八橋」と言いますが、そこに描かれている植物は「菖蒲」ではなく「杜若(かきつばた)」になります。

ちなみに、花札の「菖蒲」の読み方は「しょうぶ」ではなく「あやめ」で、さらに言うと「菖蒲(しょうぶ)」と名の付く植物には「しょうぶ」「はなしょうぶ」の2種類があります。

「しょうぶ」に「はなしょうぶ」に「あやめ」に「かきつばた」―――。

4つの植物の登場に早くも混乱してしまいそうですね。

しかもこのうち、後ろ3つは同じアヤメ科で、外見的特徴が似ていることから、「優劣つけられないくらいに似ていて、選択に迷うこと」を意味する『いずれ菖蒲(あやめ)か杜若(かきつばた)』ということわざがあるくらいです。

次項では、そんな混同してしまいがちな4つの植物の特徴・生態と、それぞれの見分け方について解説しています。

■豆知識①『いずれ菖蒲(あやめ)か杜若(かきつばた)』


平安時代の源頼政(みなもとのよりまさ)が鳥羽院に奏上した歌をもとにして生まれたことわざで、「あやめ」と「かきつばた」の花がよく似ていることにちなみ、美人が大勢集まっている場面で「どの人も優劣なく美しい」と形容する際に用いられています。

 

源頼政と鳥羽院のエピソードは以下のようなものです。

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鵺(ぬえ)退治の功績があった平安時代末期の武将・源頼政は、使えていた鳥羽院の身近にいる「菖蒲(あやめ)の前」という女官に思いを寄せていました。

 

そのことを知った鳥羽院は12人の美女を頼政に紹介し、こう言いました。

 

「この中から『菖蒲の前』を選ぶことができたなら、褒美として彼女を娶(めと)らせてやろう。」

 

しかし、頼政は誰が「菖蒲の前」か分からず、困り果てて次のような和歌を詠みました。

 

「五月雨(さみだれに) 沢辺(さわべ)の真薦(まこも) 水越えて いづれあやめと 引きぞわづらふ」

(訳)梅雨のせいで沢の水かさが増し、「まこも」も「あやめ」も水没してしまった。いったいどれがあやめの葉なのか・・、引き抜こうにも悩んでしまうな。そのくらいに、12人のうち誰が菖蒲の前なのか分からなくなったことよ。

 

この歌を聞いた鳥羽院はひどく感心し、2人が一緒になることを許可。めでたく頼政は「菖蒲の前」と結ばれることになったのです。

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菖蒲・花菖蒲・あやめ・杜若(かきつばた)の特徴

菖蒲(しょうぶ)

蒲の穂のような花をつけた菖蒲(しょうぶ)

4つの植物のうち、唯一「ショウブ科(旧分類:サトイモ科)」に分類される「菖蒲(しょうぶ)」は、華やかな花を咲かせるアヤメ科の「花菖蒲(はなしょうぶ)」とはまったく異なる外観をしていて、細く尖った長い葉にガマの穂(※1)のような花を咲かせるのが特徴です。

 

(※1)ガマ・・漢字表記は「蒲」(=草かんむりに浦)。水辺に生える水草の一種で、ふわふわとしたフランクフルトのような見た目の花穂をつけるのが特徴。花穂は秋になると爆発し、綿毛が出てくる。

また、端午(たんご)の節句(※2)「菖蒲湯(しょうぶゆ)」に用いられているのもこの「菖蒲(しょうぶ)」で、爽やかな香りで邪気を払い、無病息災を祈願する意味合いがあります。

(※2)端午の節句【5/5】・・別名「こどもの日」「菖蒲の節句」。男の子の健やかな成長を願う日で、子どもの出世を願ってこいのぼりを立てたり、邪気払いのために菖蒲湯に入ったり、縁起物としてちまきや柏餅を食べたりする。

▶▶【5月行事】端午(たんご)の節句と八十八夜|こいのぼり・柏餅・ちまきの雑学

花菖蒲(はなしょうぶ)

艶やかな紫色が美しい花菖蒲(はなしょうぶ)

アヤメ科アヤメ目の「花菖蒲(はなしょうぶ)」は、主に水はけの良い湿地に生え、濃淡のある白・紫・桃・青の花を咲かせます。

開花時期は5月上旬~5月中旬で、背丈は80~100cm。一般的に「菖蒲(しょうぶ)」と言えば、この「花菖蒲(はなしょうぶ)」のことを指します

「花菖蒲」の名は「菖蒲(しょうぶ)」と似たような葉っぱをつけることにちなんだもので、花を咲かせた「菖蒲(しょうぶ)」が「花菖蒲(はなしょうぶ)」になるわけではありません。




菖蒲/綾目/文目(あやめ)

文目模様が特徴的な菖蒲(あやめ)の花

花びらの中央に網目状の模様があるアヤメ科アヤメ目の「菖蒲/綾目/文目(あやめ)」は、主に山野の草地などの乾いた土地に生え、真っすぐ伸びた茎の先端に白や紫の花を咲かせます。

背丈は30~60cmくらいで、開花時期は4月下旬~5月中旬。耐寒・耐暑性が高いため、ガーデンニング初心者に人気があります。

■豆知識②『菖蒲(しょうぶ)を「あやめ」と呼ぶ理由』


「菖蒲(しょうぶ)」を「あやめ」と呼ぶようになった理由には諸説ありますが、飛鳥・奈良時代に、「菖蒲(しょうぶ)」を用いて邪気払いの儀式をしていた女性を「あやめ」と呼んでいたことに由来すると言われています。

杜若(かきつばた)

水辺に咲く杜若(かきつばた)の花

アヤメ科アヤメ目の「かきつばた」は、主に水辺や川辺などの湿地に生え、背丈は50~70cmくらい。紫色の花を5月下旬~6月上旬に咲かせます。

漢字表記には「杜若」「燕子花」があり、「杜若」は、中国でツユクサ科のヤブミョウガを意味する「杜若(とちゃく)」に由来したもの、「燕子花」は、花の姿が飛んでいる「燕(つばめ/つばた)」のように見えたことにちなんだものです。

また、後述する在原業平(ありわらのなりひら)が、この「かきつばた」を見て和歌を詠んだ場所が三河国(=現在の愛知県)の八橋だったことから、愛知県の県花にも指定されています。

■豆知識③『五千円札と燕子花(かきつばた)』


実は「かきつばた」は、現在私たちが使っている紙幣(五千円札)の裏側にも描かれているんです。図柄のもとになったのは、江戸時代中期の画家・尾形光琳(おがたこうりん)の「燕子花(かきつばた)図」で、金色の背景に群青と緑青だけを用いて「燕子花」の群生を描いたこの作品は、国宝にも指定されています。

見分け方

「はなしょうぶ・あやめ・かきつばた」は、3種とも同じ「アヤメ科」に分類され、外観的特徴が非常によく似ています。(※葉は真っ直ぐ上にピンと伸び、花びらとがくは同じ色・形)

そんな混同されがちな3つの植物は、以下のように花びらの根元の色・模様を見ることで簡単に見分けることができます。

アヤメ・カキツバタ・ハナショウブの違い・見分け方

アヤメ・・花びらの根元は黄色で、内側に筋が食い込んでいる。(=文目模様)
カキツバタ・・花びらの根元は白色で、模様は入っていない。

ハナショウブ・・花びらの根元は黄色で、その外側に筋が入っている。




八橋(やつはし)と在原業平(ありわらのなりひら)

三十六歌仙額「在原業平(ありわらのなりひら)」
出典:三十六歌仙額「在原業平」wikipediaより

花札の5月札の「かきつばた」と一緒に描かれている「八橋(やつはし)」は、三河(=愛知県知立市)にある「八橋(やつはし)」がモデルになっていて、この地で美しく咲く「かきつばた」を見て、在原業平(ありわらのなりひら)が旅の気持ちを和歌にしました。

その時に詠んだのが次の和歌です。

らころも つつなれにし ましあれば るばるきぬる びをしぞおもふ」――『伊勢物語』9段「あづま下り」より

(訳)何度も着て身体になじんだ唐衣(からころも)のように長年なれ親しんだ妻を、都に残したままこの地へはるばる来てしまったからか、旅のつらさが身にしみて感じられてくる。

八橋を流れる沢のほとりに美しく咲く杜若(かきつばた)を見た在原業平が、「か・き・つ・ば・た」の5文字を頭文字において旅の気持ちを詠んだ有名な和歌で、このような和歌技法のことを「折り句(おりく)」と言います。

▼和歌の技法・単語解説▼


【枕詞(まくらことば)】
◯からころも・・「着」にかかる枕詞

(※「着」以外にも、「袖」「裾」「紐」などにかかる。)

 

【掛詞(かけことば)】
◯なれ・・着慣れるを意味する「慣れ」と、馴れ親しむの「馴れ」
◯つま・・都に残してきた「妻」と、衣の裾を意味する「褄」
◯はるばる・・着物を張るという意味の「張る張る」と、遠くからの「遥々」
◯きぬる・・「来ぬる」「着ぬる」

■豆知識④『在原業平(ありわらのなりひら)』


平安時代の貴族で、六歌仙(※3)・三十六歌仙(※4)の一人。「希代(きたい)のプレイボーイ」という異名を持つ恋多き男性で、心を奪われた女性が数多くいたとか。平安時代初期の歌物語集である「伊勢物語」は彼がモデルになっています。

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(※3)六歌仙(ろっかせん)・・古今和歌集の序文に記された、平安時代前期の代表的歌人6人のこと。小野小町(おののこまち)・僧正遍昭(そうじょうへんじょう)、在原業平(ありわらのなりひら)、喜撰法師(きせんほうし)、文屋康秀(ふんやのやすひで)、大伴黒主(おおとものくろぬし)を指す。覚え方は、各歌人の頭文字をとって「お惣菜は気分次第」(=お【小】そう【僧】ざい【在】はき【喜】ぶん【文】しだい【大】)

 

(※4)三十六歌仙(さんじゅうろっかせん)・・平安時代中期の歌人・藤原公任(ふじわらのきんとう)が過去および同時代の優れた歌人36人を選定したもの。万葉歌人からは、柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)・山部赤人(やまべのあかひと)・大伴家持(おおとものやかもち)が、古今和歌集・後撰和歌集などからは、紀貫之(きのつらゆき)・在原業平・小野小町ら33人が選ばれた。




おわりに

いかがでしたでしょうか。

では、最後に内容をおさらいしましょう。

5月の花札に描かれている「菖蒲(読み方:あやめ)」は「かきつばた」で、「八橋(やつはし)」は三河国(=愛知県)の「八橋」を指す。

4つの花のうち「菖蒲(しょうぶ)」だけが、ショウブ科(サトイモ科)の植物に属し、「菖蒲(しょうぶ)」は、端午の節句の「菖蒲湯(しょうぶゆ)」などに用いられている。

同じ外観的特徴を持つアヤメ科の「はなしょうぶ・あやめ・かきつばた」は、花びらの根元の色・模様で見分けることができる。

八橋の近くで美しく咲いていた「かきつばた」を見て、在原業平(ありわらのなりひら)が旅の心情を和歌にして詠んだ。

5月は「端午の節句」なので、てっきり菖蒲湯に用いられる「しょうぶ」が5月の花札に描かれているのかと思いきや、実際は「かきつばた」の花。しかも、「菖蒲」と書いて「あやめ」と呼ぶなど、紛らわしい限りです・・。

そんなややこしい4種の植物ですが、記事を最後まで読み終えた皆さんなら、きっとその違いを正しく答えられるはず。

とはいえ、花札のゲーム中にあまりうんちくを披露しすぎると嫌がられるので、知識自慢はほどほどにしてくださいね。

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

 

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