
こんにちは、
りんとちゃーです。
花札10月札に描かれている「もみじ(紅葉)」と「鹿」。
(左から順に「紅葉に鹿」「紅葉に青短」「紅葉のカス」「柳のカス」)
花札2月の「梅」と「うぐいす」同様に「絵になる取り合わせ」と考えられていた「紅葉」と「鹿」は、百人一首⑤番の「紅葉踏み分け鳴く鹿の~」で詠まれるように、秋を代表する植物・動物でもあります。
記事では、以下のことをまとめています。
■「もみじ」の語源と「カエデ」との相違点
■「紅葉のメカニズム」について
■「鹿」の特徴と「奈良公園の鹿」
■百人一首⑤「奥山に紅葉踏み分け~/猿丸太夫」の解説
「もみじ(紅葉)」と「鹿」の知識を深く学んで、秋の哀愁美をその身に感じましょう。
紅葉(もみじ)
和名『もみじ』の由来
植物からとれる染料を用いて染め物をすることを「揉(も)み出(い)づ」と言い、秋になって樹木が鮮やかに変色していく様子が、衣服を鮮やかに染めるこの「揉み出づ」に見えたことにちなんで「もみじ」と呼ばれています。
他にも、葉っぱが赤みを帯びて紅葉する様子を「紅葉(もみ)づ」と言い、そこから赤く色づいた葉を「もみじ」と呼ぶようになったとする説もあります。
漢名『紅葉』の由来
万葉の時代までの「もみじ」は「黄葉」と書かれていましたが、平安時代になると、貴族が黄色よりも鮮やかな赤色を好むようになり、その影響で「黄」から「紅(赤)」へと漢字表記が変化したと考えられています。
「もみじ」と「カエデ」
混同されて使われることの多い「もみじ」と「カエデ」。
植物分類学上、「もみじ」も「カエデ」も「カエデ科カエデ属」に分類され、大きな違いはありませんが、一般的には「カエデ」の中で特に色づくもののことを「もみじ」と呼んでいます。
また、盆栽の世界では次のように両者が区別されています。
▶「もみじ」・・葉が小さく、切れ込みが深い。真っ赤な色に染まる。
▶「カエデ」・・葉が大きく、切れ込みが浅い。
このような区別は日本特有のもので、英語圏では「もみじ」も「カエデ」も共に「メープル」と呼んでいて、同一のものとみなしています。
■豆知識①『カナダの国旗』
「メープル・フラッグ」と呼ばれるカナダの国旗に描かれているのは、サトウカエデという品種で、紅葉が美しく、メープルシロップがとれることでも有名です。国旗の「赤」と「白」は「ナショナルカラー(国民色)」と呼ばれていて、「赤」は勇気と強さ、「白」は潔白と誠実さを表しています。
■豆知識②『カエデの語源』
「カエデ」の語源は「葉っぱの姿」にあり、昔の人が葉っぱの形(=切れ込みが4つで5列の葉)を見て「カエルの手」を想像し、そこから「蛙手(カエルデ)」▶「カエデ」になったと言われています。ちなみに、カエデの葉っぱの分かれている数は必ずしも「5列」ではなく、「7列」や「9列」のモノも中には存在します。
紅葉のメカニズム
植物が紅葉するのは、「葉に含まれる色素量が変化するから」で、その色素の含有比率によって葉の色が「緑」⇨「黄」⇨「赤」と段階的(グラデーション)に変化します。
一般的に、植物の葉には、光合成のための「クロロフィル(葉緑素=緑色の色素)」と、それをサポートする「カロテノイド(黄色の色素)」が含まれています。
寒くなって葉が光合成をしなくなると、色素の「クロロフィル」が分解・減少。「緑色」が薄くなっていくとともに、隠れていた「カロテノイド」の「黄色」が目立ちはじめ、植物の葉の色は「緑」から「黄色」へと変化します。
その後、気温がさらに下がると、葉に残っているデンプン・糖に化学変化が起こり、「アントシアニン」という「赤色の色素」が生成されるようになります。
最終的に、この「アントシアニン」の色素量が「カロテノイド」より多くなって、葉は赤く色づくのです。
■豆知識③『紅葉の名所の条件』
日本三大紅葉の里と名高い「京都府・嵐山(あらしやま)」「栃木県・日光(にっこう)」「大分県・耶馬渓(やばけい)」。これら3つが「紅葉の名所」と称されているのは、いずれもが小高い山の中腹にある谷間の日当たりの良い斜面にあり、紅葉がきれいに色づく自然条件(=昼夜の寒暖差が大きい・空気が澄んでいる・太陽の光がよく当たる・湿度が高い)をすべて満たしているからです。
■豆知識④『植物が落葉するのはなぜ?』
冬になると太陽光が減少して空気が乾燥し、光合成ができなくなって水分がどんどん蒸発していきます。そこで樹々たちは、「このままじゃ身体に大きなダメージを受ける!」と考えて、すべての葉を落とし、栄養・水分を蓄えようとします。つまり「落葉」とは、植物の『生き残りのための決死の戦略』なのです。
鹿
■基本データ
分類:シカ科シカ属
学名:Cervidae
英名:Deer
分布:日本の他、東アジア一帯(中国からロシアまで)
種類:日本には、本州のホンシュウジカや北海道のエゾシカなど、12の亜種が生息。
特徴
奈良公園をはじめ、日本国内に生息する野生の「ニホンジカ」には、季節によって毛色を変化させる特性があります。
夏場は茶褐色に白い斑点(=鹿の子模様)のある見た目をしていますが、冬になるとその斑点が消失。少し暗めの茶褐色一色に変化します。
夏場の鹿の子模様には、太陽の木洩れ日に似せて外敵から身を守るカモフラージュ(保護色)としての役割があり、冬になってそれが消えて暗めの茶褐色になるのは、枯れ葉や枯れ木に擬態して敵に見つかりにくくするためです。
ちなみに「鹿の子模様」は、人間の指紋と同じように一頭一頭で異なり、生涯その模様は変わることがないと言われています。
また、角を持つのはオスのみで、春先の伸び始めの角は表面が皮膚に覆われていて柔らかく、夏になるにつれてそれが硬い質感のものへと変化していきます。
生態
「昼行性」で多くは夜を林の中で過ごし、昼になると餌を求めて草原などの開けた場所に出てきます。ただし、人が多いところでは「夜行性」に変わり、夜間に人家や農地に出没する例も多く報告されています。
食性は、草の葉や茎・樹木の実などを主食とした「雑食」で、餌のない冬季には、樹皮や落ち葉・きのこなども食べます。
奈良公園の鹿
日本最大の都市公園(面積約660ha)の「奈良公園」には、約1200頭もの鹿が生息していて、そのほとんどが野生のメス鹿にあたります。
「鹿」が多くいるのには理由があり、奈良公園の敷地にある「春日大社(かすがたいしゃ)」の由来書によると、鹿島(かしま)新宮の御祭神「タケミカヅチノミコト(※1)」が白い鹿にまたがって、はるばる春日の地にやって来たという伝承があり、そこから奈良公園の鹿が「神の使い」として手厚く保護されるようになったと言われています。
(※1)タケミカヅチノミコト(建御雷命)・・日本神話の大国主の「国譲り」で活躍した雷の神。その後に神武(じんむ)天皇の大和征服を助け、蝦夷(えみし)の平定神として歴代の武家政権から崇敬された。剣道・武道場の掛け軸に「鹿島大明神」として描かれていることで知られる。茨城県(常陸国)にある鹿島神宮の御祭神。
ちなみに「春日大社」は、藤原京・平城京・難波宮など、奈良の都の遷都が繰り返される中で、当時の実力者の藤原氏が、自らの氏神(=藤原氏の源流・中臣氏の出身地である常陸【ひたち】国の氏神)を祀る神社として創設したものです。
■豆知識⑤『奈良公園の鹿せんべい』
奈良公園の鹿の餌に使われる「鹿せんべい」は、製造元によって多少の違いがありますが、一般的には、小麦粉(薄力粉)と米ぬかを原料にして作ります。また「鹿せんべい」は、一般財団法人「奈良の鹿愛護会」の登録商標でもあり、その売上の一部が鹿の保護にあてられています。
鹿の肉
「もみじ」の別称で知られる鹿の肉は、低カロリー(牛・豚の1/3)かつ高タンパクで、DHA・ミネラル・鉄分なども豊富なことから、ヘルシー食材として女性に人気があります。
また、鹿肉に含まれる「ヘム鉄」は、人間の身体に吸収されやすい鉄分なので、貧血や冷え性の人におすすめです。
■豆知識⑥『肉の隠語』
鹿の肉の「もみじ」以外にも、「かしわ(鶏肉)」「さくら(馬肉)」「ぼたん(猪肉)」など、植物の名前を使った「肉の別称(隠語)」がいくつか存在します。
これらの「隠語」ができたのには理由があり、江戸時代に、徳川5代将軍・綱吉が施行した「生類憐れみの令」によって食用肉を食べることが禁じられ、その際に、町民たちが知恵を絞って考え出したのが、この植物の名前で肉を言い換える「隠語」だったのです。
鹿茸(ろくじょう)
「鹿」は「漢方薬」としても重宝され、中でも、若い「鹿」の生え替わり途中の角(つの)を切り取った「鹿茸(ろくじょう)」は、強壮・強精・鎮痛薬として古くから中国で愛用されてきました。
「鹿茸」という名前は、鹿の角が落ちたところに小さなコブのようなものが生え、その成長スピードがキノコ(=茸)のように速かったことに由来するものです。
■豆知識⑦『しかとの由来』
「無視すること、仲間はずれにすること」を意味する「しかと」は、花札の10月の鹿がそっぽを向いていることにちなんだものです(鹿の十【しかのとお】▶しかと)。花札由来の言葉には、他に「ぴかいち」「ピンきり」などがあります。
(▶▶関連記事:【花札辞典】「こいこい・花合わせ」の用語の読み方と意味)
百人一首の「紅葉」と「鹿」
百人一首の中で「紅葉(もみじ)」と「鹿」が詠まれている歌、と言って思い出すのが、あの有名な⑤番の和歌です。
「奥山に 紅葉(もみじ)踏み分け 鳴く鹿の 声聞くときぞ 秋はかなしき」――百人一首⑤猿丸太夫
(訳)山奥の紅葉を踏み分けて、雌鹿(めじか)を恋慕って鳴く雄鹿(おじか)の声を聞くときほど、秋はしみじみと悲しく感じるものだ。
「三十六歌仙(※2)」の一人である歌人の「猿丸太夫(さるまるだゆう)」は、「古今和歌集」の中にもその名が見られ、生没年が不詳だったことから「謎多き人物」と言われています。
上記の和歌は、猿丸太夫が芦屋の山にあった自分の庵で、秋の情景を眺めながら詠んだ歌で、山奥で足元の紅葉を踏み分けながら歩いていた歌人が、鹿の「ケーン」という鳴き声を聞いて感慨にふける、そんな哀愁ただよう内容になっています。
(※2)三十六歌仙(さんじゅうろっかせん)・・平安時代中期の歌人・藤原公任(ふじわらのきんとう)が過去および同時代の優れた歌人36人を選定したもの。万葉歌人からは、柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)・山部赤人(やまべのあかひと)・大伴家持(おおとものやかもち)が、古今和歌集・後撰和歌集などからは、紀貫之(きのつらゆき)・在原業平・小野小町ら33人が選ばれた。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
では、最後に内容をおさらいしましょう。
■「もみじ(紅葉)」の和名の由来は染め物の「揉み出づ」で、漢名の由来は平安貴族の嗜好にある。
■「もみじ」と「カエデ」は分類上の違いはないが、盆栽の世界では明確に区別されている。
■紅葉(こうよう)による色の変化は、葉にある色素の含有率が関係していて、色素には「クロロフィル(緑色素)」「カロテノイド(黄色素)」「アントシアニン(赤色素)」の3つがある。
■「鹿」の毛色は、白斑の散在した茶色ないし赤褐色で、オスだけが角を持つ。
■奈良公園には野生のメス鹿が1200頭ほどおり、春日大社の御祭神「タケミカヅチノミコト」の伝説にちなんで手厚く保護されている。
■「鹿肉」はヘルシーな食材として人気があり、漢方薬の「鹿茸(ろくじょう)」は中国で古くから愛用されている。
■「紅葉」と「鹿」を題材にした百人一首⑤番の和歌の歌人である「猿丸太夫(さるまるだゆう)」は「三十六歌仙」の一人で、「古今和歌集」にもその名が見られる。
今回は、秋を代表する動植物の「紅葉(もみじ)」と「鹿」について学びましたが、奈良公園の「鹿」の敬われている理由が、春日大社の伝説によるものだったというのは非常に驚きです。
また「紅葉」と言えば、「紅葉の観光名所」を訪れるのが定番ですが、今年はあえて近くの公園に出かけ、身近な「紅葉の木」の色づきの変化を楽しむというのも、感慨深さがあって良いかも知れません。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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