こんにちは、
りんとちゃーです。
花札6月札の牡丹(ぼたん)の花のそばをひらひらと舞う「チョウ(蝶)」。
(左から順に「牡丹に蝶」「牡丹に青短」「牡丹のカス」「牡丹のカス」)
童謡「ちょうちょ」のモチーフにもなっている、日本人にとって馴染み深い「チョウ(蝶)」は、極楽浄土に魂を運んでくれる神聖な存在で、その姿の美しさから、着物の文様・柄などにも取り入れられてきました。
記事では、以下のことをまとめています。
■チョウにまつわる雑学・豆知識
■チョウの表記名の由来
■日本の伝統的和柄「蝶文様」について
■昆虫の形態的変化「完全変態」「不完全変態」の解説
「チョウ(蝶)」が舞い寄る知識の花にとまって、学びの蜜を汲み取りましょう。
▼蝶と一緒に描かれている植物「牡丹」についての記事はこちら▼
▶▶関連記事:【花札6月①】牡丹(ぼたん)から広がる植物の世界|あゝ麗しき花の王さま
チョウの雑学・豆知識
世界一大きなチョウは?
世界一のチョウは、羽根を広げると20cmにもなる「アレクサンドラトリバネアゲハ」のメスです。パプアニューギニアのみに生息する絶滅危惧種で、エメラルド色の美しい羽根を持ちます。
世界一小さなチョウは?
世界最小の「チョウ」は、北アメリカに生息する体長1.2cmの「コビトシジミ」で、ハワイやサウジアラビア、アラブ地域で見ることができます。
ひらひらと飛ぶのはなぜ?
チョウは飛ぶスピードが遅いので、鳥などの天敵に見つかるとすぐ襲われてしまいます。そこでチョウは「ひらひら」と不規則な動きをして天敵を惑わせ、うまく身をかわしているのです。
とまっているチョウはどうして羽を広げているの?
「変温動物」のチョウは、体が温かくならないと飛ぶことができないので、羽を広げて太陽光を浴び、体温を上げているのです。
「チョウ(蝶)」と「ガ(蛾)」の違いって何なの?
両者の違いを説明する前に、まずは「チョウ」とは何か確認しておきましょう。
「チョウ」の定義は以下の通りです。
定義
「チョウ」とは、「鱗翅(りんし)目」の中の、アゲハチョウ・シロチョウ・シジミチョウ・タラハチョウ・セセリチョウ科に含まれる昆虫のこと。
「チョウ(蝶)」と「ガ(蛾)」はどちらも「鱗翅(りんし)目」に分類され、分類学上は同じ生き物になります。実際、2つを区別しているのは日本だけで、世界では区別されていません。
一般的に、美しい姿をしているのが「チョウ」で、地味な色合いをしているのが「ガ」という認識がありますが、地味な「チョウ」や美しい「ガ」がいたりと、例外も多くあったりします。
両者の生態・特徴的違いを以下にまとめましたので、区別する際の参考にしてください。
●チョウ(蝶)・・昼行性。先端の膨らんだ細い棍棒状の触覚を持つ。細い体をしていて、派手で美しい外見のものが多い。羽を閉じてとまる習性がある。
●ガ(蛾)・・夜行性。太い房状の触覚を持つ。太い体をしていて、外見が地味なものが多い。羽を広げてとまる習性がある。
■豆知識①『童謡「ちょうちょ」の歌詞の秘密』
子どもの頃に誰もが歌ったことのある春の童謡「ちょうちょ」。
(歌詞)ちょうちょ、ちょうちょ、菜の葉にとまれ。菜の葉にあいたら、桜にとまれ。桜の花の、花から花へ。とまれよあそべ、あそべよとまれ。
歌詞に出てくる「ちょうちょ」は「モンシロチョウ」のことを指していますが、実際の「モンシロチョウ」が「桜」にとまることはほとんどありません。
では、なぜ「桜」と歌われているのでしょうか。
実は、戦前に歌われていた「ちょうちょ」では、後半部分の歌詞が「さくらの花のさかえるみよに、とまれよあそべ」と続いていて、現代の歌はそれをベースに作られたものなので、そのまま「桜」になっているんです。
由来・語源
■学名:Lepidoptera
■漢名:蝶
■旧和名:てふてふ
■英名:butterfly(バタフライ)
■西欧名:psyche(プシュケ)
学名「Lepidoptera」の由来
学名の「Lepidoptera」は、「鱗翅目(りんしもく)」全般を表す言葉で、単に「チョウ」を示す場合は「Rhopalocera」と表記します。
語源となったのは、ギリシャ語の「lepis=鱗」と「pteron=翼」で、「鱗」は「チョウ」や「ガ」の「鱗粉(りんぷん)※1」のことです。
(※1)鱗粉(りんぷん)・・「チョウ」や「ガ」の羽についている粉のこと。顕微鏡で見ると魚の鱗に似た形をしていることからこう呼ばれている。空気抵抗を大きくして飛ぶ力を増やす働きと、水をはじいて体温低下・窒息死を防ぐ役割がある。
漢名「蝶」の由来
漢字の右側の「葉っぱの草かんむりをとった部分」は「薄くて平たい木の葉」を表していて、これは、「チョウ」の羽(=翅)を見た昔の人が、その形から枝先についた「薄い葉っぱ」を連想したことに由来します。
旧和名「てふてふ」の由来
旧日本語で「て」は「横」、「ふ」は「飛ぶ」を意味し、「チョウ」が横向きに飛んでいる姿をそのまま言葉で表して「てふ」になったと考えられています。
他にも、羽を広げた姿が、両手首を合わせて指を広げた形(手符=てふ)に見えたからなど、由来には諸説あります。
英名「butterfly(バタフライ)」の由来
「butter」と「fly」の複合語「butterfly」の由来には、魔女がチョウの姿に変身してバターを盗みにやってくるからというものや、バターのような排泄物を出すからというもの、さらに、キチョウ・キアゲハなどの一部の「チョウ」が黄色いバター色をしているからなど、さまざまな説があります。
西欧名「psyche(プシュケ)」の由来
「蝶」は、死んだ状態の象徴である「サナギ」から飛び出して来ることから、人間のからだを抜け出る「霊魂」と同一視されていました。
「psyche(プシュケ)」はその「霊魂」を人格化した言葉で、ギリシャ神話で「アモル(※2)」に愛された美少女「プシュケ(※3)」の名前にちなんだものと言われています。
(※2)アモル(Amor)・・ギリシャ神話の愛の神「エロス(ローマ神話のクピド)」のラテン語名。愛と美の女神「アフロディーテ(ローマ神話のヴィーナス)」を母に持つ。イタリア語で「愛する人」を意味する「アモーレ」の語源となった言葉。
(※3)プシュケ(Psyche)・・「アモル(エロス/クピド)」と結ばれて女神になった美しい女性。その美貌から愛と美の女神「アフロディーテ」の嫉妬を買った。
■豆知識②『ことわざ「胡蝶(こちょう)の夢」』
「胡蝶の夢」は、蝶を用いた有名な故事成語・ことわざで、意味は「夢なのか現実なのか、その区別がはっきりしない」です。
由来となったのは、中国の道家の思想家・荘子(そうし)※4の「斉物論(せいぶつろん)」の中の一節で、書では次のように記されています。
「ある日、胡蝶となった夢を見、目が覚めると、自分が夢で胡蝶となったのか、胡蝶が今夢の中で自分になっているのか、区別がつかなかった――。」
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(※4)荘子(そうし)【B.C.364頃-B.C.286頃】・・中国戦国時代・宋の思想家。中国の古典書「荘子(そうじ)」の著者で、道教の始祖。「無為自然」の思想を基本にして、世俗の世界から逃れることを説いた。
蝶文様・蝶紋
「蝶文様(ちょうもんよう)」は、「吉祥文様(きっしょうもんよう)」(=縁起の良い動植物を描いた図柄)として、古くから着物や帯の柄に用いられてきました。
その起源は奈良時代にまでさかのぼり、中国から日本に伝来した「蝶文様」が、平安時代に公家装束の「有職文様(ゆうそくもんよう)※5」に取り入れられ、その後、庶民のあいだにも広まりを見せました。
(※5)有職文様(ゆうそく)もんよう・・平安時代以降に、公家・貴族の束帯(そくたい)や十二単(じゅうにひとえ)・調度品(ちょうどひん)などの装飾に用いられていた優美な文様のこと。図案化されているので年間を通して着ることができ、現代でも「和風文様の基調」として広く使用されている。
「卵」▶「幼虫」▶「さなぎ」を経て、美しい「成虫」へと変容する「チョウ」は、古くから「復活・不死不滅」の象徴と考えられていて、死と隣り合わせの武士にとっては特別な存在でした。
そのため、「チョウ」をあしらった「蝶紋」は「平家の代表紋」として重宝され、後に平清盛(たいらのきよもり)が「丸に揚羽蝶(あげはちょう)」の家紋を作ることになります。
▼丸に揚羽蝶▼
ちなみに「蝶文様」は、地域や時代によっては「死霊」「黄泉の使い」といった不吉なモノに捉えられることがあり、ひと昔前の結婚式では、「蝶文様」の着物・帯を身につけることはタブーとされていました。
完全変態と不完全変態
「チョウ」をはじめとした、ミツバチ・カブトムシ・ハエ・ガなどは、「卵」▶「幼虫」▶「サナギ」▶「成虫」と4つの段階を経て成長することで知られており、このような形態的変化のことを「完全変態」と言います。
ちなみに、バッタやトンボ・セミなどの昆虫は、「卵」▶「幼虫」▶「成虫」と3段階で成長し、こちらは「完全変態」に対して「不完全変態」と呼びます。
厳密には「幼虫から成虫になるまでの過程に『サナギ』があるかないか」で両者が区別されていて、『サナギ』を経て成長するものを「完全変態」、『サナギ』を経ないで成長するものを「不完全変態」と言い換えることもできます。
ちなみに「完全変態」をする昆虫は、成虫になったときに劇的に見た目が変わりますが、「不完全変態」をする昆虫は、幼虫も成虫も同じような見た目のままで、外見上あまり変化が見られません。(※セミ・トンボは例外的に見た目が変化する)
おわりに
いかがでしたでしょうか。
では、最後に内容をおさらいしましょう。
■「チョウ」と「ガ」は両方とも「鱗翅(りんし)目」に分類され、分類学上は同じ生き物になる。ただし、昼夜行性・触覚の形状など、生態・外見的特徴には相違点がある。
■「蝶文様/蝶紋」は、平安貴族の「有職文様(ゆうそくもんよう)」や「平家の旗印」に用いられた由緒ある図柄である。
■幼虫から成虫になるまでの過程で『サナギ』を経るものを「完全変態」、経ないものを「不完全変態」といい、「チョウ」は「完全変態」をする昆虫にあたる。
今回ご紹介した「完全変態」と「不完全変態」は、中学校の理科で習う内容ですが、普段使うことがない知識なので、忘れてしまっていたのではないでしょうか。子どもにばかにされないためにも、学生時代に勉強したことは今一度復習しないといけませんね。
季節はようやく春。菜の花にとまる「ちょうちょ」が見られる時期になりました。
現代では環境の変化から、昔ほど「ちょうちょ」を見かけなくなりましたが、自然の多い公園などではまだまだ飛んでいるそうです。もし姿を見かけたらじっくり観察して、新たな気づきを得てみたいものですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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