
こんにちは、
りんとちゃーです。
花札1月札で「鶴」と一緒に描かれている植物の「松(まつ)」。
(左から順に「松に鶴」「松に赤短」「松のカス」「松のカス」)
お正月の日の「門松」をはじめ、建築材にも使われている「松」は、名前が「祀(まつ)る」に通ずることから、古くから神の宿る木として日本人に尊ばれてきました。
記事では、以下のことをまとめています。
■「松(マツ)」の特徴と由来・種類
■花札における「松」と「鶴」の関係
■「松ぼっくり」と正月の縁起物「門松」
■マツ枯れ病とそのメカニズム
■松茸(マツタケ)の生態と人工栽培ができない理由
「松」について詳しく学んで、「松クラス(最高級)」の知識を身につけましょう。
▼松と一緒に描かれている「鶴(ツル)」についての記事はこちら▼
■関連記事:長寿と縁起を象る「鶴(ツル)」の世界|千羽の鶴に願いを込めて
松(マツ)
■基本データ
学名:pinus
科・属名:マツ科マツ属
英名:pine(パイン)
和名:松、まつ
別名:千代見(ちよみ)草、翁(おきな)草、常磐(ときわ)草など
花言葉:不老長寿、永遠の若さ、哀れみ、同情
原産地:日本、中国
開花時期:4~5月
生態・特徴
マツ科マツ属の常緑広葉樹の総称である「松(マツ)」は、苗木の頃は円錐状の形をしていて、生長するにしたがって上下左右に枝を拡大させます。葉は、水や熱の発散を防ぐために針のように細くなっていて、春になると、若い枝に「松のみどり」と呼ばれる花びらのない花を開花。その後、「松ぼっくり」を実らせます。
「松」の樹木は、主に建築材として利用され、松の木から分泌される天然樹脂の「松ヤニ(松脂)」は、弦楽器(バイオリンなど)の弓やバレエのトゥーシューズの滑り止めに使われています。
花言葉
「松」の花言葉は「不老長寿/永遠の若さ」と「哀れみ/同情」で、それぞれに次のような由来があります。
●不老長寿/永遠の若さ・・松の樹齢が数百年にもなることに由来。
●哀れみ/同情・・ギリシャ神話のエピソード(下記参照)に由来。
■豆知識①『ギリシャ神話と松』
「ゼウス」「ポセイドン」の母にあたる女神「レア」は、とある羊飼いに思いを寄せていました。しかし、羊飼いには恋人がおり、嫉妬心から「レア」は羊飼いを「松の木」に変えてしまいます。その後、羊飼いのことが忘れられず、「松の木」の下で悲しみに暮れる「レア」を見た「ゼウス」が、哀れみの気持ちから「いつまでも姿が変わらないように」と松を常緑樹にしたと言われています。
格言
私たちの暮らしの中に根付いた「松」には、さまざまな格言・言い伝えが残っており、有名なもので言うと、江戸時代の俳人・松尾芭蕉(まつおばしょう)が『三冊子(さんぞうし)』の中で書いた「松のことは松に習え、竹のことは竹に習え」があります。
これは「俳諧や詩歌、茶道などの真髄は、対象と一体化することで生まれる」ことを説いたもので、現在では「ものの本質を知るためには、人に聞いたり調べたりするより、そのもの自体に向き合うべきだ」という意味で使われています。
由来・語源
学名の「pinus」は、ケルト語で「山」を意味する「pin」を語源にしていて、読みの「まつ」の由来には、天から降りる神さまを「待つ」木だからとか、葉が二股に分かれている=「股(また)」が変化したものなど、さまざまな説があります。
漢字の「松」は、分解すると「木へん」に「公(コウ、おおやけ)」となり、「公」とは、両手を左右に開いて包み隠さず公開するという意味です。手の指を開いたような形の松の葉は、風通しが良くて向こう側が透けて見えるので、この漢字が当てられたと考えられます。
■豆知識②『パイナップルの語源』
トロピカルフルーツの王者である「パイナップル(pineapple)」の名前は、松の英名「パイン(pine)」に由来するもので、果実にあたる部分が松かさ・松ぼっくりに似ていて、その味がりんご(apple)のようであることから「pineapple」となったと言われています。
種類
「松」の木は世界に約200種類以上あり、日本には6種が自生しています。その中でよく見かける「赤松(アカマツ)」と「黒松(クロマツ)」について順に見ていきましょう。
アカマツ
「赤松(アカマツ)」は別名「雌松(メマツ)」と呼ばれ、主に山間部の尾根に植えられています。幹の色は赤っぽく、葉の長さは7~10cm。先端は柔らかく、触っても痛くありません。「赤松」は松茸の生産林として有名で、松ぼっくりは4~5cmほどの大きさになります。
クロマツ
別名「雄松(オマツ)」と呼ばれる「黒松(クロマツ)」は、潮に強い性質を持っていて、津波・高波防止の防砂林として海岸沿いに植えられています。
幹の色は黒っぽく、葉の長さは6~10cm。太くて硬く、触るとチクチクするのが特徴で、樹木の肌はうろこのように剥がれます。松ぼっくりの大きさは6~8cmくらいです。
松ぼっくり
子どもの頃に誰しもが拾って投げたことがある「松ぼっくり」。
そもそも「松ぼっくり」とは何なのでしょうか?
「松ぼっくり」は、正式名を「松かさ」と言い、漢字では「松笠」「松傘」「松毬」と書きます。その正体は、松の木がつける「球果(※1)」と呼ばれる果実で、硬いりん片が集まってできた「球果」の中には種子が入っていて、水に濡れて湿るとりん片が閉じ、逆に乾燥して乾くとりん片が開きます。
この性質を利用して「松」は、風のある晴れた日に遠くの場所へ種を飛ばしているのです。
(※1)球果(きゅうか)・・裸子植物(スギ、ヒノキ、マツなど)の果実のことで、球形もしくは楕円形に集まったうろこ状の葉(りん片)が成長して木化したもの。
門松(かどまつ)
「松(マツ)」は厳しい環境でも育ち、一年中葉をつけることから、縁起の良い木として様々なものに利用されています。
その主たるものがお正月に玄関先に飾られる「門松(かどまつ)」で、「門松」には、豊作・健康の神である「歳神様(※2)」が家にやってくる際に迷わないようにする、「目印・道標(みちしるべ)」としての役割があり、そこに神さまが鎮座すると考えられていました。
現在では「松」ではなく「竹」が用いられますが、これは室町時代に、長寿の象徴として「松」と一緒に「竹」を飾ったことに由来します。
(※2)歳神様(としがみさま)・・日本神話に登場する穀物神のことで、地域によっては「歳徳神(としとくしん)」「恵方神」「とんどさん」とも呼ばれる。恵方巻きの名前の由来にもなっている「恵方」は、その年の「歳神様」がやってくる方位を示す言葉。

2022年の恵方は
「北北西」だったね。
ちなみに、門松を飾り始めるのは、「すす払い・松迎え」と呼ばれる12/13以降の日が良いとされていて、二重苦を連想させる12/29や、一日飾りとなる12/31は避けるのが一般的です。また、門松を飾る期間のことを「松の内」と呼び、この期間は地域によって異なります(関東では1/7まで、関西では1/15まで)。
飾り終わった門松を処分する際は、小正月(こしょうがつ)に神社で行なわれる「どんど焼き(※3)」でお焚き上げしてもらいましょう。
(※3)どんど焼き・・お正月の飾り物(門松・しめ縄・書き初めなど)を焚き上げる(燃やす)神社の火祭り行事。小正月の日(=1/15)に行なわれる。
花札における松
花札の1月札では、「松」が新年にふさわしい縁起の良い植物として「鶴」と一緒に描かれていますが、実際の「鶴」が「松」に寄ってくることはありません。
「松」に寄ってくるのは「コウノトリ」で、「コウノトリ」は松の木に巣をつくり、子どもを生んで育てます。
ではどうして「松」と「鶴」がペアで描かれているのでしょうか。
実はこれ、実際の様子を描いたものではないんです。
古くから「鶴」は、白い羽と老人の白髪をかけて、「松」「亀」に続く「長寿の象徴」と考えられていて、同様に「松」も、冬の寒さの中で枯れずに緑のまま輝き続けることから、「不老長寿のシンボル」として人々に崇められていました。
それらの経緯で、同じ「長寿」同士の「松」と「鶴」がペアで1月札に描かれ、そこに縁起担ぎのニュアンスが込められるようになったのです。
ちなみに「松」と同様に、冬の厳しい寒さの中でも耐え抜く植物には、他に「竹」と「梅」があり、これら3種類の植物は合わせて「厳寒の三友(げんかんのさんゆう)」、もしくは「歳寒の三友(さいかんのさんゆう)」と呼ばれています。
国産マツの危機
国産の「松(マツ)」は、近年、枯渇の危機に瀕していて、その主な原因となっているのが、「マツノマダラカミキリ(※4)」というカミキリ虫が、マツ類を枯らす病原線虫「マツノザイセンチュウ」を運ぶことで生じる「マツ枯れ病(松くい虫病)」です。
(※4)マツノマダラカミキリ・・海外から輸入された丸太に付着して国内に侵入した外来のカミキリ虫。夜行性で6月から7月に羽化し、成虫になってからマツなどの樹木を食べる。
「マツ枯れ病」は次のようなメカニズムで起こると考えられています。
「カミキリ(マツノマダラカミキリ)」の体内に「線虫(マツノザイセンチュウ)」が寄生し、「カミキリ」が松を食害する際に「線虫」が松の内部に侵入。増殖した「線虫」が、根から吸い上げた水を葉に送る「仮道管」を詰まらせ、葉が水不足になって松は枯れてしまう。
その後、枯れた松に「カミキリ」が卵を産み付け、その幼虫にまた「線虫」が寄生。成長して羽化した「カミキリ」がまた別の松を食害する――、というサイクルが繰り返され、感染が拡大していく。
松茸(マツタケ)
秋の味覚の王様である「松茸(マツタケ)」。
市場に出回っている「松茸」の9割以上は輸入もので、国産のものは数%しかありません。輸入先のトップは中国で、その割合は65%以上。2位以降の国は、トルコ、アメリカ、カナダ、韓国などです。
一般的なキノコは「腐生菌(ふせいきん)」と「菌根菌(きんこんきん)」の2種に分類され、松の近くに生える「松茸」はこの「菌根菌」に属し、松の根から直接エネルギー源である糖を受け取って成長しています。
●腐性菌・・堆肥や樹木を分解して、そこから栄養を吸収するキノコ(シイタケ、エノキ、ブナシメジなど)
●菌根菌・・生きた植物の根に付着して養分を与え合い、共生しながら育つキノコ(松茸、本シメジ、トリュフなど)
松茸の生態については詳しくは分かっていませんが、赤松(アカマツ)の根元に「シロ」と呼ばれる快適な場所を見つけ出し、そこを「城根(しろね)」にして成長すると言われています。
また、完全に生育するためには、日照量・気温・湿度などの様々な自然条件が揃う必要があり、その存在はまさに「偶然の賜物」です。
ちなみに、松茸の値段が高額なのは、こういった自然条件や共生関係を人工的に作り出すのが難しく、他のキノコのように人工栽培ができないからだと考えられます。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
では、内容をおさらいしましょう。
■日本でよく見かける「松(マツ)」は、「赤松(アカマツ)」と「黒松(クロマツ)」の2種類がある。
■「松ぼっくり」は正式名を「松かさ」と言い、その正体は、松の木がつける「球果」と呼ばれる果実。
■縁起のよい樹木の松は、お正月の「門松」として用いられ、神さまの依り代ろである「門松」を玄関に飾ることで「歳神様」を迎え入れていた。
■国産のマツは「マツ枯れ病(松くい虫病)」の影響で枯渇の危機に瀕している。
■キノコには、「腐生菌」と「菌根菌」の2種類が存在し、松茸はこの「菌根菌」に属する。複雑な自然条件や共生関係を人為的に再現できないことから、松茸の人工栽培は難しいとされている。
「松茸」は、日本や韓国では好んで食べられていますが、他の国ではあまり食べる習慣がないとか。どうやらその独特の香りが敬遠のもとになっていて、欧米では「靴の匂い」と形容されているそうです。
国によって美味しさの価値観が変わるというのは、どこか不思議な気がしますね。
今回ご紹介した「松」以外にも、花札ではたくさんの種類の動植物が登場します。別記事で詳しくまとめていますので、興味のある方は下記リンクをご参照ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
▼松と一緒に描かれている「鶴(ツル)」についての記事はこちら▼
■長寿と縁起を象る「鶴(ツル)」の世界|千羽の鶴に願いを込めて
▼花札の歴史や雑学をもっと知りたい方はこちら▼
■花札の絵柄の意味と由来 |札の名前からみる日本の風物詩
■任天堂と花札の関係|歴史と企業哲学からみる成功のルーツ
■花札の歴史|日本の伝統的「かるた」の繁栄と衰退の足あと
コメント